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MT車廃止論の現実味

1.5% vs 98.5% …勝算は明らか

下記図1は、軽自動車と輸入車を除いた乗用車総販売台数におけるMT車とAT車の販売比率を表したものだ。

図1)自販連調べ、軽自動車と輸入車を除く

クルマには大きく分けて、マニュアルトランスミッション(以下、MT)とオートマチックトランスミッション(以下、AT)の2種類(細かく言えばMTとATの中間に位置するようなセミATやクラッチフリーなどもあるが)がある。免許を取るときにどちらにするか迷った人も多いはず。

しかし、図1を見ても分かるように、乗用車総販売台数に対するMT車の比率は1.5%と極端に低くなっている。

運転免許合格者数

下記図2は、乗用車の運転免許試験の合格者数をMT免許、AT限定免許に分けて示したもの。

図2)警察庁 運転免許統計より

図2を見ると一目瞭然だろう。平成15年には合格者の半数近くがMTだったが、平成26年にはAT限定の方が多い状況にある。

数年前に「MT車の人気が高まっていて、今後MT車の販売、普及もわずかながらに増えていくだろう」という話をあちらこちらで聞いた気がする。

が!

図1と図2の表を見れば分かるように、MT車の比率は年々減り続けているのだ。

では、MT車のメリットはどこにあるのか。個人的にメリットと思われる点を5つ挙げてみた。

MT車のメリット

①構造が単調で故障が少ない

②AT車よりも安い

③燃費がいい

④パワーが強い

⑤楽しい

これらのメリットを検証してみよう。

MT車のメリットはどこへ…?

①構造が単調で故障が少ない

 →MT車でも構造は単調とは言い切れず、AT車の精度も上がっていて故障は少ない。

②AT車よりも安い

 →同一車種であっても総生産台数においてAT車の方が圧倒的に多い今の時代、少量生産となるMT車の方が高くつく。(例:スバル「WRX」等)

③燃費がいい

 →いくらMT車でうまく運転したとはいえ、ハイブリッド車や電気自動車の燃費にはかなわない。

④パワーが強い

 →車種の性能に依存するため一概にMT車のパワーが強いとは言えない。

⑤楽しい

 →今の時代もっとほかに楽しいことはある。…!?

いまや、MT車のメリットはことごとく覆されている。

「スーパーカー=AT」という事実

MT車の代表と言えば、フェラーリやランボルギーニなどの高級スーパーカーが思い浮かぶ。しかし、デュアルクラッチ式のDCT(←簡単にいえばAT)がほとんど。「スーパーカー=MT車」という時代は終わったのかもしれない。

調べてみたところ、フェラーリやランボルギーニにはすでにMT車の設定が存在しない。日本車では、日産「GT-R」、ホンダ「NSX」にもMT車の設定はなかった。高級スーパーカーほどATしか存在しない結果となった。

先日発表されて話題になったトヨタ「スープラ」にもMTの設定はない。ATの技術の進歩はかなり進んでいて、今さらMTの開発に資金を投じる価値はないのだという。ATでも十分スポーツ性能を引き出せるとしている。

また、圧倒的にAT車の普及率が高いこの時代に、あえてMT車の開発に力を入れる必要性がないという意見もある。その分、MTを超えるATシステムの開発に注力した方が勝算が見込める。つまりは売れるということ。売れないものにはカネをかけない。当たり前だ。

BMW、ポルシェにはMT設定あり

MT車が絶滅危惧種にあるのはわかったが、完全に消滅したわけではない。BMWが販売する高性能モデル「BMW M」シリーズの車種にはMTの設定がある。また、ポルシェにもSUVを除いてほとんどの車種にATとMTを設定している(ポルシェでのMTの販売比率は10%にも満たないらしいが)。

イタリアのコンパクトハッチ、アバルト(近いうち試乗記をお届け予定)にもMT車が用意されているし、ルノーも同様だ。

国内に目を向けてみると、スズキ「アルト」にはMTの楽しさを前面に押し出したグレード「アルト ワークス」「アルト ターボRS」なども販売されている。同社の「ジムニー」や「スイフトスポーツ」などもMT車の設定がある。そのほか、マツダ「ロードスター」やトヨタ「86」、日産「フェアレディZ」もそうだ。これらの車種はMTの販売比率が比較的高い。

本格スーパーカーはヘタクソの買い物

運転がうまいか、ヘタクソか、そのあたりも影響していそうだ。

例えば、運転がうまい人ほど、実用的なスポーツカーを買うのは想像できる。ロードスターや86など比較的手を出しやすい価格帯のクルマを買って、できる範囲でカスタムし、サーキットに持ち込み走りを楽しむ。

一方で、数千万円もするようなフェラーリやランボルギーニなどのいわゆるスーパーカーは、大金持ちが買う。毎日乗ることはなく、バーカウンターを併設したようなキレイなガレージに飾って、週末だけ、あるいは月一回程度運転する、そんなイメージ。傷つけるのが怖いため、峠を攻めに行くようなことはしない。スーパーカーのオーナー全員がヘタクソとは言わないが、クルマのポテンシャルを最大限引き出して運転しているドライバーはどれほどいるか疑問だ。

そうなると、タクソオーナーでも乗れるようにATしか設定しないのもうなずける。

MT車=少量生産の希少車

どんなに走りを楽しむために開発されたクルマだとはいえ、MTを搭載すること自体がデメリットとなっている。売れるATの開発を進め、MTでしかできなかったことをATでもできるように、あるいはそれ以上にすることが現代の主流となっている。

ごく一部の限られたユーザーに対して、限られた車種にMTを搭載するという少量生産になっている希少車がMT車ということになる。

現に、スバルの高性能スポーツカー「WRX」は、AT車の「S4」よりもMT車の「STI」の方が価格が高い。生産数が少ないため高めの値段設定になっていると販売員が話していた。

進む「MT車廃止論」

事実、MT車に乗ると、坂道発進はめんどくさい。エンストのリスクは避けられない上に、左足の自由度は制限される。MTでの長時間運転は疲れる。MT車に乗るメリットは皆無といっていい。

かねてより提唱していた、いつかMT車が廃止されるだろうという個人的な「MT車廃止論」は着実に進行しているような気がする。

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