あの日、デスクワークをしていた。金曜日ということもあり、明日からの二日間どのように休日を過ごすか、そう考えながら、高揚していた。発生直後、本棚から本が落下し、PCモニターやプリンターが倒れ、デスクに必死にしがみついていた。何度も襲ってくる余震。その後反射的に屋外に避難していた。逃げた先は表参道の骨董通り。多くの人が驚いた様子で通りに集まってきた。スーツ姿のサラリーマン、コンビニの店員、有名料理店の大勢のコック。骨董通りに店を構える多くの従業員たちで通りは溢れかえっていた。
オフィスにはテレビ、ラジオはなく、頼れる情報源はWebサイトのみ。はっきりとは覚えていないが、Webサイトのニュース動画ページで津波の映像を見た。流される家々。クルマ。瓦礫。いま思い出しても、衝撃だった。
結局、状況がわからないまま、すべての仕事を切り上げたのは午後7時すぎ。約20キロの道のりを徒歩で帰宅した。通常なら3時間ほどで到着する距離を、あの日は6時間以上かかった。大名行列のように多くの人たちと連なって、無言で、黙々と、歩いた。
自分にできることはそう多くはないが、一日も早く復興することを願い、鎮魂の一日を過ごした。その程度では自分への気休めにしかならないことはわかっている。でも、何もしないより、きっといい。