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日産 GT-R(R35)試乗記|16年熟成のスーパーカーは「普段遣い」できるのか?

「GT-R」という響きには、どこか近寄りがたい怪物のイメージが付きまとう。2007年にスカイラインから独立し、R35型として登場して以来、細かい意匠を変えながらフルモデルチェンジすることなく販売が続く、日本を代表するスーパーカーだ。

登場から16年目を迎えた2023年式。日産の開発担当者は、最新のGT-Rを「R35史上最高の洗練された乗り味」と表現している。純粋なスポーツカーが「洗練」を語るとき、それは牙を抜かれたのか、それとも知性を手に入れたのか。

今回は、価格1,896万700円、オプション込みで2,000万円に迫る「Premium Edition T-spec」をあえてサーキットではなく、買い物や街乗りといった日常のステージへと連れ出した。教習所の教官として数多のクルマの「扱いやすさ」を見てきた経験、取材者としての観察眼、そしてWebメディア編集長としての俯瞰。この3つの視点から、16年熟成されたスーパーカーが日常にどこまで降りてきたのかを検証してみたい。

結論を先に言うと:今回の試乗で見えたポイント

  • 予想を裏切る快適性:静かなマフラー、段差をいなすサスペンション、変速ショックのなさ。スーパーカーの常識を覆すほど街乗りがしやすい。
  • 完璧な「前席」の実用性:疲れないシートと、ゴルフバッグ3つが積める広大なトランク。2名乗車の旅行や買い物なら完璧にこなす。
  • 隠しきれない「16年前の骨格」:絶望的に狭い後席、車間制御がないクルーズコントロール、古さを感じるUI。日常のふとした瞬間に時代感が顔を覗かせる。

牙を抜かれたのではなく、知性を手に入れた走り

運転席に腰を下ろし、エンジンに火を入れる。大音量の咆哮を覚悟して身構えたが、予想は見事に裏切られた。拍子抜けするほど静かなのだ。

取材者としての目で紐解けば、ここには明確な理由がある。近年の厳しい騒音規制に対応するため、2022年モデルからマフラーが変更され、高音域を残しつつ低音域をカットするチューニングが施されているのだ。

走り出しも極めて滑らかだ。アクセルを優しく踏み込めばスムーズに動き出し、初期のR35でよく指摘された、トランスミッションの「ガチャガチャ」とした変速振動がまったくない。路面の轍(わだち)やマンホールの段差、ガソリンスタンドへ入る際の縁石の乗り越えでも、衝撃が驚くほど丸められている。

「根っからのファンには物足りないのではないか」と余計な心配をしてしまうほど、その挙動は紳士的だ。

「トラクションマスター」がもたらす日常への歩み寄り

このショックの少ない乗り心地は、T-spec専用サスペンション(Tはトラクションマスターの意)の恩恵が大きい。GT-R NISMOを除く全グレードで電子制御サスペンションの制御が見直されており、足回りがしなやかに路面を捉える。

街乗り中心であれば、トランスミッションを「SAVEモード」に、ショックアブソーバーを「COMFモード」にするのが正解だ。SAVEモードは余分な出力を抑え、アクセルレスポンスを穏やかにしてくれるため、市街地でのストップ&ゴーが劇的に楽になる。

しかし、ひとたび「Rモード」に入れれば、車は即座に豹変する。エンジン音は高音でうなりを上げ、アクセルレスポンスは剃刀のように鋭くなり、サスペンションは路面をガッチリと掴んで離さない。この「日常の穏やかさ」と「非日常の狂気」をスイッチひとつで切り替えられる二面性こそ、16年かけて到達したGT-Rの現在地だ。

完璧な実用性と、残された「時代感」

では、日常の道具として「完璧」かと言われれば、教官の視点からはいくつかの但し書きが必要になる。

まず素晴らしいのは、前席のパッケージングだ。フィット感が高く疲れないシート、良好な視界、そして外観からは想像もつかないほど広大なトランク。ゴルフバッグなら3つ、大型トランクでも2つは余裕で飲み込む。夫婦での長距離旅行や大型スーパーでの買い出しなら、まったく不満は出ないだろう。

一方で、どうにもならないのが後席だ。「スポーツカーの後席は荷物置き」と割り切るにしても、身長179cmの私が座ると頭はリアガラスに密着し、足を入れる隙間すらない。炎天下では後頭部を直射日光が焼き、熱中症すら心配になるレベルだ。

さらに注意が必要なのは、先進安全装備の古さである。クルーズコントロールは搭載されているものの、現代では当たり前の「車間制御機能」がない。高速道路で前方に車が割り込んできても自動で減速しないため、ドライバーは常にペダルに足を添えておく必要がある。

内装はグリーンの本革や、フロントガラスへの反射を抑えるアルカンターラが奢られ、高級感と機能美が両立している。しかし、Apple CarPlayには対応しているものの、ナビやインパネのUIデザインには、最新のデジタルデバイスに慣れた目からすると明確な「古さ」を感じてしまうのも事実だ。

こんな人には刺さる / 刺さらない

GT-R(R35)が強烈に刺さる人

  • 「世界トップクラスの走行性能」と「休日の買い物」を一台で両立させたい人
  • 内燃機関の極致とも言えるメカニカルな完成度を所有したい人
  • 最新のデジタル制御よりも、車の骨格が持つアナログな魅力を愛せる人

GT-R(R35)をおすすめしない人

  • 後席に頻繁に人を乗せる必要がある人
  • 最新の運転支援システム(渋滞時の手放し運転など)に頼りきった運転に慣れている人
  • 車内空間に、最新スマートフォンのようなUIやエンタメ性を求める人

総評:その「アンバランスさ」こそがR35の魅力

編集長として自動車業界のタイムラインを俯瞰すると、GT-Rの立ち位置は極めて特異だ。16年という歳月は、自動車にとって残酷なほど長い。実際、UIの古さや運転支援の未熟さといった部分に、2007年の骨格を隠しきれない「時代感」が滲み出ている。

しかし、だからこそこの車は愛おしい。熟成を重ねて手に入れた驚異的な乗り心地と静粛性。そして、いざとなればサーキットの第一線で戦える圧倒的なパフォーマンス。この「洗練」と「古さ」の同居というアンバランスさこそが、R35型GT-Rが持つ唯一無二の味わいなのだ。

日産が「集大成」と呼ぶ2023年式はすでに生産が終了し、新車で購入することはできない。毎回抽選販売となるこの車を中古のプレミア価格で追うのは覚悟が要るが、もし2024年式が登場するならば、さらに熟成の極みに達しているはずだ。

スーパーカーでありながら、コンビニの縁石を気にせず乗り越え、大量の買い出し荷物を積んで帰れる。GT-Rは、我々の日常に寄り添う「優しき怪物」へと確かに進化していた。

今回試乗したGT-Rの基本情報

車種日産 GT-R(R35型)
試乗グレードPremium Edition T-spec(2023年式)
車両本体価格1,896万700円(試乗車は約50万円のオプション装着)
初登場年2007年(試乗車は登場から16年目のモデル)
ラインアップ価格帯1,375万円(Pure Edition)〜 2,915万円(NISMO Special Edition)

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