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テスラ モデルY試乗記|乗り心地・使い勝手・走りから見えた「走るデバイス」の正体

伝統的なクルマ好きほど、テスラという存在に対して複雑な感情を抱くものだ。しかし、乗らずして語るには、彼らの進化のスピードはあまりにも速い。

2025年1月にマイナーチェンジを受けたミッドサイズSUV「モデルY」。日本には2022年6月に上陸し、現在RWD(航続距離547km)とロングレンジAWD(同682km)をラインアップしているが、今回は後者のロングレンジAWDを公道へと連れ出した。

私はこれまで、自動車教習所の教官として多くのドライバーの「操作の迷い」を見てきた。同時に、取材者として数多のクルマの裏側を覗き、Webメディアの編集長としてモビリティ産業のうねりを俯瞰してきた。その3つの視点を重ね合わせると、このクルマは単なる移動手段ではなく、強烈な思想を持った「デジタルプロダクト」としての凄みをはっきりと見せてくるのだ。

結論を先に言うと:今回の試乗で見えたポイント

  • UIの極限集約:物理スイッチの全廃は暴挙に見えるが、結果的に「運転への集中」を生む合理性がある。
  • 見かけによらない獰猛さ:クリーンな見た目に反し、514PSの加速と硬質な乗り味は完全にスポーツカーのそれ。
  • 終わらないアップデート:完成品を買うのではなく、「進化し続けるハードウェア」を買うという感覚。

引き算の極致。サイバーテイストを纏ったエクステリア

実車を前にしてまず目を引くのは、サイバートラックやサイバーキャブの系譜を感じさせる、徹底して無駄を削ぎ落としたエクステリアだ。フロントの直線的なデイライトが睨みを効かせ、ヘッドライトはあえて下方へ隠すように配置されている。

取材者としてとくに唸らされたのは、拡散反射技術を取り入れたリアのテールライトだ。ブレーキランプの光源そのものを隠し、赤い光をパネルに反射させて投影する「ボディパネルテールライト」というアプローチ。まるで高級ラウンジの間接照明のようなモダンな佇まいは、従来の自動車デザインの文脈から一歩抜け出している。

メーターもない空間は「正解」か?

しかし、本当の驚きはドアを開けた先に待っている。車内にはハンドルとセンターのタッチスクリーンしかない。メーターパネルはおろか、エアコンのスイッチすら存在せず、ハザードランプのスイッチでさえ視界から外れた頭上に追いやられている。

停車状態では「いくら何でも素っ気なすぎる」「操作しづらいのでは」と感じるだろう。だが、いざ走り出してみると印象は反転する。すべての情報と操作が中央のスクリーンに集約されているため、ドライバーは前方から視線を逸らすことなく、運転そのものに深く集中できるのだ。

教官として多くの初心運転者を見てきた経験から言えば、操作系は「物理スイッチが多ければ安心」というわけではない。むしろ、機能の置き場がバラバラなクルマほど人は迷う。モデルYのUIは確かに最初の慣れを要求するが、情報の所在が極めて明快なのだ。この割り切った設計思想を「全部タッチ操作で不便」と切り捨てるのは早計だろう。

また、居住性の高さも見逃せない。ソフトタッチテキスタイルを用いたシートは、しっとり感とさらさら感が両立しており、ヒーターやベンチレーションの効きも優秀だ。マイナーチェンジにより後席ウインドウが2枚の合わせガラスに変更され、静粛性も着実に向上している。

514馬力の暴力と洗練。見かけによらないスポーティな走り

「ミニマルでクリーンで、静かなエコカー」——そんなステレオタイプは、アクセルを深く踏み込んだ瞬間に吹き飛んだ。

前後2基のモーターが叩き出す最高出力は514PS、最大トルクは590Nm。高速道路への合流で右足に力を込めると、強烈なGが立ち上がり、体がシートに深く押し付けられる。ステアリングフィールは設定で変更可能だが、デフォルトでもかなりクイックで重め。路面からの突き上げもダイレクトに伝わり、停車時には優しく感じられたシートが、走行中はやや硬質に感じられるほどだ。

このスポーツカー顔負けの瞬発力を受け止めるため、ボディ剛性は相当に高く設定されている。それでいて、高速巡航に移ると一転して直進安定性に優れ、滑るようなドライブフィールを提供する。

取材者の目で見ると、ここで面白いのは“速いこと”そのものではない。見た目はミニマルで使い勝手もデジタル寄りなのに、走りのキャラクターはゴリゴリに攻めている。このギャップこそがモデルYの面白さだ。「テスラなんて自動車作りのノウハウがないだろう」と食わず嫌いをしているクルマ好きほど、ステアリングを握ればその動的質感の完成度に驚くはずだ。

納車時が「未完成」という強み。終わらないアップデート

モデルYを語る上で欠かせないのが、エンターテインメントの拡張性だ。通常時はスクリーン上に自車のアバターが表示されているが、「トロンモード」に切り替えると、映画の世界観そのままに近未来的なバイク(ライトサイクル)へと姿を変える。車内には劇中音楽が流れ、走行に合わせて光跡を描きながら旋回する演出まで用意されている。さらに停車中には、乗員全員でプリクラのような写真を撮れるフォトブース機能やゲームも楽しめる。

テスラの広報担当者はこう語っていた。「日本に輸入されてくるたびに、何かしらの仕様変更や改善が施されてきます」と。

編集長として俯瞰すると、既存メーカーが直面している本当の脅威はここにある。従来の自動車産業が「数年に一度のマイナーチェンジで完成品を届けるビジネス」だとすれば、テスラは「OTA(Over The Air)で更新され続ける体験を売るビジネス」なのだ。試乗したその日のカタログスペックを評価するだけでは意味がない。スマートフォンと同じように、半年後には中身が進化しているからだ。将来的にテスラの車内でしか体験できないオリジナルコンテンツが拡充されれば、もはや「走り」や「デザイン」という伝統的な土俵だけで戦うことは不可能になる。

こんな人には刺さる / 刺さらない

モデルYが強烈に刺さる人

  • 最新のガジェットやUIの進化を楽しめるアーリーアダプター
  • スポーツカーのようなダイレクトな加速感と操作感をSUVに求める人
  • 「納車後もクルマが進化していく」という体験に価値を感じる人

モデルYをおすすめしない人

  • エアコンやオーディオ操作に、確実な物理スイッチの手応えを求める人
  • 路面の凹凸を完全にいなす、フワフワとした高級車的な乗り心地を好む人
  • クルマを「成熟した完成品」として所有したい人

総評:クルマの皮を被ったデジタルプロダクト

教官の目で見れば合理的なUIがあり、取材者の目で見れば獰猛な走りのギャップがあり、編集長として眺めれば産業構造そのもののゲームチェンジが見える。

モデルY ロングレンジAWDは、強烈な加速とソリッドな乗り味を持つスポーティなSUVでありながら、同時に「最新のソフトウェアを走らせるための堅牢なハードウェア」でもあった。カタログスペックの数字を眺めているだけでは、この車の真の魅力も、孕んでいる脅威も絶対にわからない。テスラに対して先入観を持っている人にこそ、一度はこの「走るデバイス」の鍵を受け取り、公道へと漕ぎ出してほしいと切に思う。

今回試乗したモデルYの基本情報

車種テスラ モデルY
ボディタイプミッドサイズSUV(EV)
試乗グレードロングレンジAWD
最高出力 / 最大トルク514PS / 590Nm
航続距離(WLTCモード)682km
国内発売 / 改良時期2022年6月発売 / 2025年1月マイナーチェンジ

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